
仕事で運転中に突然襲いかかる過呼吸。心拍数は上がり、手足はしびれ、「事故を起こしたらどうしよう」という恐怖に震えていたE.T.さん。救急搬送を機にパニック障害と診断され、薬だけの治療に不安を感じて熊本カウンセリングを訪れました。全5回のセッションを経て、今では笑顔でハンドルを握れるまでに。蓄積したストレスと「脳の誤作動」をどう紐解き、平穏な日常を取り戻したのか。同じ苦しみを持つ方へ、回復への道筋を記します。
車の運転中に過呼吸発作

私は仕事で車の運転をすることが多くて、運転中の過呼吸の発作があることに悩んでいました。
車の運転をしていて、呼吸がだんだん浅くなってきて、「このまま過呼吸になったらどうしよう」という不安が一気に押し寄せてくるのです。その瞬間、過呼吸になりそうな状態になるのです。
空気が吸えない感じで、心臓がバクバクします。
全身もしびれてきます。
ハンドルを握る手も震えてきて、かなり焦ります。
「どうしよう」
「このままだと気絶するかもしれない」
「事故を起こすかもしれない」
「他人を巻き込むわけにはいかない」
など、頭はものすごく回転します。
すぐに休憩できるところを探して駐車していました。コンビニの駐車場などです。
そしてすぐに病院でもらっていた薬を飲むのです。そうすると落ちついていました。
そんなことが2、3回ありましたね。
過呼吸で救急車で運ばれた

そんなふうに過呼吸の発作がでるようになったのは、今年のゴールデンウィークの前に救急車で運ばれることがあってからです。
その日は平日で、昼間は仕事をしていました。
お昼にコーヒーを飲んで「いつもより気持ち悪いな」と思っていました。カフェインをとったらいつも少し動悸がするのですが、いつもよりも動悸が強いなと感じていました。
仕事が終わって自宅に帰って、ご飯を食べて「早めに寝よう」と思いました。
布団に入って横になったのですが、呼吸が浅くて苦しいのです。
それがだんだん激しくなってきました。
それはこれまで体験したことがない感覚だったので、自分で救急車を呼びました。
病院に着いて、注射を打たれました。
そうるすとその発作はだんだん治まりました。
そのとき医師から「パニック障害による過呼吸」と診断されました。
私の過呼吸の原因は

今振り返ると、私に過呼吸発作が起きた原因は、
もともと自律神経が乱れやすい体質であることと、
コーヒーを飲んでカフェインをとったこと、
仕事に関する体の疲労と精神的なストレスが積もりに積もっていたこと、
だと思います。
過呼吸が解消されてありがたい

熊本カウンセリングはネットで検索して見つけました。
薬による治療だけでは不安だったので来ました。
5回のセッションを受けて、仕事中の過呼吸発作はずいぶんなくなりました。
9月以降は過呼吸の発作がでて薬を飲んだのは1回あるかないかぐらいでした。(※この体験談インタビューは10月)
今日までの結果としてはものすごい改善があったので、ありがたいです。
(40代女性 E.Tさん)
心理カウンセラーのコメント

E.T.さん、勇気を持ってご自身の体験を言葉にしてくださり、本当にありがとうございます。
文章を読み進めるうちに、高速道路や一般道を運転中、逃げ場のない車内で「息が吸えない」というあの絶望的な恐怖と戦っていたE.T.さんの姿が目に浮かび、胸が締め付けられる思いがしました。
心理療法家として、E.T.さんが経験された苦しみと、そこからの鮮やかな回復のプロセスについてコメントをさせていただきます。
なぜ「しびれ」や「バクバク」が起きるのか
Laffey, J. G., & Kavanagh, B. P. (2002)によって呼吸の生理学的メカニズムが説明されています。
不安によって呼吸が速く、浅くなると、血液中の二酸化炭素($CO_2$)が過剰に排出されます。すると血液がアルカリ性に傾き(呼吸性アルカローシス)、血中のカルシウムイオンが減少することで、手足のしびれや筋肉の硬直が引き起こされるのです。
脳は「空気が足りない!」と錯覚してさらに吸おうとしますが、実際には酸素は足りており、むしろ吸いすぎている状態です。この「脳の誤作動」が、E.T.さんを「気絶するかもしれない」という恐怖のどん底に突き落としていた正体なのです。
カフェインと「積もり積もったストレス」の相互作用
E.T.さんの分析通り、ゴールデンウィーク前の救急搬送が「トラウマ(起点)」となり、そこに「カフェイン」と「蓄積した疲労」が火を注いだ形になったと考えます。
Nardi, A. E., et al. (2009)では、パニック障害の傾向がある人の脳はカフェインによる微細な心拍の変化を「生命の危機」として過剰検知し、フルサイズの発作へと増幅させてしまう「生物学的過敏性」があると指摘しています。
つまり、カフェインは交感神経を刺激し、心拍数を上げます。普段なら気にならない程度の動悸も、一度大きな発作を経験した脳にとっては「またあの発作が来るぞ!」という警報アラート(予期不安)として誤認されてしまうのです。
精神的ストレスや肉体的疲労が「コップに溜まった水」だとしたら、カフェインの一杯が最後の一滴となり、溢れ出したのがあの夜の発作だったと考えます。
心理療法で脳が再トレーニングされた
これまでの数多くの研究で心理療法がパニック障害の治療に有効であることが示されています。
Hofmann et al. (2012)は、パニック障害に対しては、CBT(認知行動療法)が他のどの心理療法と比較しても最も強力な効果があると認めています。
Arch, J. J., et al. (2012)は、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)はCBT(認知行動療法)と同等の効果があることが証明しています。
Faretta, E. (2013)は、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)はCBT(認知行動療法)と同等、あるいはそれ以上のスピードで症状を軽減させることを示しています。
CBTは「思考の筋トレ」のようなものですが、ACTは「心の器を広げる作業」、EMDRは「脳の記憶の掃除」と言い換えることができます。
パニック障害の脳内では、海馬(記憶)と扁桃体(恐怖)が「動悸=死」という誤ったリンクを強固に結びつけてしまっています。心理療法は、この誤ったリンクを切り離し、「動悸=ただの生理現象」という新しい回路を物理的に作り出すプロセスです。
E.T.さんが5回のセッションではEMDR(眼球運動による脱感作と再処理)やタッピングセラピーなどをしましたが、劇的に改善されたのも、こうした学術的背景に基づいた「脳の再学習」がスムーズに行われた結果だと言えるでしょう。
参考・出典URL
Laffey, J. G., & Kavanagh, B. P. (2002). Hypocapnia. New England Journal of Medicine, 347(1), 43-53.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra012457
Nardi, A. E., et al. (2009). Caffeine challenge test in panic disorder and depression with panic attacks. Comprehensive Psychiatry, 50(2), 172-176.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17445520/
Hofmann, S. G., et al. (2012). The Efficacy of Cognitive Behavioral Therapy: A Review of Meta-analyses. Cognitive Therapy and Research, 36(5), 427-440.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3584580
Arch, J. J., et al. (2012). Randomized clinical trial of cognitive behavioral therapy (CBT) versus acceptance and commitment therapy (ACT) for mixed anxiety disorders. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 80(5), 750-765.
Arch, J. J., et al. (2012). Randomized clinical trial of cognitive behavioral therapy (CBT) versus acceptance and commitment therapy (ACT) for mixed anxiety disorders. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 80(5), 750-765.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22563639/
Faretta, E. (2013). EMDR and Cognitive Behavioral Therapy in the Treatment of Panic Disorder: A Comparison. Journal of EMDR Practice and Research, 7(3), 121-133.
https://spj.science.org/doi/10.1891/1933-3196.7.3.121
この記事を書いた人
- 公認心理師。2007年に心理カウンセラー・心理セラピストとして独立し、熊本市に「熊本カウンセリング」を開設しました。以来17年以上にわたり、心理カウンセリングの実践に携わり、これまでに7,000件を超える相談実績を積み重ねてきました。2019年には拠点を熊本県八代郡氷川町に移し、地域に根ざした活動を展開しています。
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