
「夫が転職を繰り返し、親の介護にも協力してくれない」——。すべてを一人で抱え込み、限界を感じていた50代のR.E.さん。なぜ自分ばかりが苦労を引き寄せてしまうのか。前世療法で見えてきたのは、イスラム圏で夫を亡くし、過酷な労働と介護を独りで全うした女性「ヨーダ」の姿でした。前世から続く「我慢のループ」に気づき、ハイヤーセルフが授けた「素直になる」という言葉の真意とは。夫婦の在り方を根本から見つめ直す体験記です。
掲載の許可をいただいています。
夫が転職を繰り返す
「夫が転職を繰り返す」
「実家の両親の介護に協力してくれない」
と話されるクライアントのR.Eさん。
そこで今回の前世療法のテーマは「夫と円満な関係になるにはどうしたらよいのか?」と設定しました。
前世はイスラム圏の未亡人ヨーダ

前世療法が始まると、R.Eさんの心の中で見えてきたのは岩だらけの荒野の中にある白い四角のモスク(イスラム教の寺院)。
それを悲しい気持ちで見ていた一人の女性、ヨーダ。夫を亡くして呆然としています。
それがR.Eさんの前世でした。
もともとヨーダは頭がよく、行動力もある女の子でした。
両親や祖父からも「しっかりしている」「頼りになる」と褒められて育ちました。
大人になって、石切り場で石を運ぶ仕事をしていた夫と結婚し、子供も授かり、人生は順調でした。
しかしヨーダが45歳のときに、夫が事故死します。大きな石の下敷きになったのです。
その日からヨーダは、亡くなった夫と同じように石を運ぶ仕事をして生計を支え、一人で子育てをし、そして年老いた親の世話までし続けたのです。
苦難の連続でしたが、生き抜いたのでした。

ヨーダは82歳で子供と孫に囲まれて亡くなりました。
この前世の自分の死の場面を見て、その後に前世の自分やハイアーセルフ(その人の一生を守ってくれる魂)との会話をして、このときの前世療法は終了しました。
ハイヤーセルフからのメッセージ
クライアント様から下記のご感想をいただきました。
前世はモノクロでぼんやりとした映像のように見えました。
ハイアーセルフは女神様のように見えました。
ハイアーセルフには「どうしたら幸せになれますか?」と尋ねました。

そうすると「自分の心に素直になりなさい」という答えをもらいました。
自分では自分の心に素直にしているつもりですが、本当はしていないのかなと思いました。
しかし考えてみると、夫には自分の言いたいことをはっきり言わずに接してきたと思います。そういう意味で素直ではありませんでした。
「こういうところがイヤ」とはっきり言わないできました。
はっきりではなくともある程度は伝えてきたつもりですが、分かってもらえていないです。
はっきり言わずに、我慢することばかりしてきました。
「今までがそうだったように、言っても分からないだろう」
「子供が独立するまではとにかく我慢しよう」
と考えてきました。
友達に相談すると、
「よく我慢しているよね」
「よく一緒にいるよね」
「私だったら無理」
と言われています。
「素直になる」とは
今回の前世療法での最大の気づきは、「前世と同じような人生を繰り返しているのかもしれない」ということです。
一人で子育てして、一人で親の面倒をみる人生です。
前世のヨーダがそうだったように、私は苦難に耐える力はとても高いのですが、それが裏目に出て、自己表現することを諦めてきたのかもしれません。
「言ったら争いになるかもしれないし、それも面倒くさい」という感じです。
私は口で言葉を言うよりも、文章を書いて伝える方が得意です。
子供達には、「生まれてきてくれてありがとう」みたいな文章を毎年書いて送っています。
彼らが社会人になってからも送っています。
思い残すことがないようにです。
それと同じようなものを夫に書けばよいのでしょうけれど、それはなかなか照れくさいですね(笑)。
また、なんで私だけがこんな努力をしないといけないのかなと腹が立つ気持ちもあります。向こうは何の努力もしないのに。
LINEでは毎日「今日は○○が用意してあります」のような文章を書いて送信しています。
以前は「わかりました」「了解」と返信をしてくれていたのですが、最近は返信もありません。「既読」にはなっているのですが。
長くそんな姿を見せつけられるとうんざりしてきます。
ただ、この腹立たしい気持ちやうんざりした気持ちを率直に伝えることが、「素直になる」ことかもしれませんね。そこから始めるとよいかもしれません。
今のままだったら何も変わらないと思います。
良いほうに変わるためには自分も努力をしないといけないと分かっています。
(50代女性 R.Eさん)
心理カウンセラーからコメント

R.E.さん、まずはこれまでお一人で、どれほど重い「石」を運び続けてこられたことか。ご主人の不安定なキャリア、そしてご両親の介護という、人生の荒波が一度に押し寄せている中で、なお「私が頑張らなければ」と立ち続けているあなたに、深い敬意を表します。
心理療法家として、今回の前世療法で現れた「ヨーダ」という女性の物語、そしてハイヤーセルフからのメッセージを、あなたのこれからの人生を軽やかにするための指針として読み解いていきたいと思います。
夫婦という「システム」の歪み
家族システム論の観点から見ると、R.E.さんの「過剰な有能さ」が、皮肉にもご主人の「無責任さ」を助長している可能性があります。
Bowen, M. (1978)は、家族を一つのシステムと捉え、一人が「過剰機能(Over-functioning)」に陥ると、もう一人がバランスをとるように「低機能(Under-functioning)」になるという相互作用を明らかにしました。
過剰機能(Over-functioning)の妻: 何でも一人でやり遂げ、文句を言いつつも最後には責任を取る。
低機能(Under-functioning)の夫: 妻が何とかしてくれるため、粘り強く一つの職に留まったり、家庭の役割を分担したりする「必要性」を感じにくくなる。
R.E.さんの「石を運ぶ有能さ」が、結果としてご主人の「転職を繰り返す不安定さ」をシステムとして支えてしまっている可能性があります。
R.E.さんが「言っても無駄」「争うのが面倒」と口を閉ざすことで、システム内のパワーバランスは固定され、ご主人は「既読スルー」という受動的な攻撃で自分の立場を守ろうとします。
「素直になる」というメッセージは、この膠着したシステムに新しい風を吹き込むための、唯一にして最大の鍵と考えます。
「素直になる」の本当の意味とは
R.E.さんがハイヤーセルフから受け取った「素直になる」というメッセージ。これを心理学では「脆弱性の開示(Vulnerability Disclosure)」と呼び、人間関係における「親密さの回復」や「力関係の再編」に不可欠なプロセスとして研究されています。
脆弱性研究の第一人者であるBrown, B. (2006)は、数千人のデータを分析し、真の「繋がり(Connection)」を築いている人々の共通点は、自分の不完全さや弱さをさらけ出す勇気を持っていることだと突き止めました。逆に、弱さを隠すための防衛(R.E.さんの場合は「過剰な有能さ」や「我慢」)は、孤独を深める原因になると論じています。
独りで石を運び続け、完璧な「強い妻」を演じ続けることは、ご主人に対して「あなたは必要ない」というメッセージを無意識に送っていることと同義です。弱さを開示することは、ご主人の中に眠る「役割(助ける余地)」を復活させる招待状になります。
「こういうところがイヤ」と伝えることは大切ですが、それはまだ戦いの延長線上にあります。本当に素直になるなら、「私は今、介護と仕事の板挟みで、壊れてしまいそうなほど心細い。あなたに隣にいてほしい」という、弱さをさらけ出す言葉が必要なのです。
「素直になる」ことは、「耐える力」を「分かち合う力」へと進化させるプロセスです。
「手紙」で伝える
R.E.さんは、お子さんたちに毎年温かい文章を贈るという素晴らしい習慣をお持ちです。これは、あなたが本来「愛を言語化する高い能力」を持っている証拠です。
ご主人に対して「なんで私だけが……」と腹が立つのは当然です。しかし、前世のヨーダが82歳まで孤独に石を運び続けたその最後を、R.E.さんは今世で変えることができます。ご主人への手紙を「照れくさい」と感じるのは、彼がまだあなたにとって「甘えられる対象」ではなく「乗り越えるべき壁」になっているからです。
まずは、いきなり愛を伝えようとしなくていいのです。 「私は、あなたとこうして心の通わない状態が続くのが、たまらなく悲しい」 この一文を書くことから始めてみてはいかがでしょうか。
参考・出典URL
Bowen, M. (1978). Family therapy in clinical practice. Jason Aronson.
https://archive.org/details/familytherapyinc0000bowe
Brown, B. (2006). Shame resilience theory: A grounded theory study on women and shame. Families in Society: The Journal of Contemporary Social Services, 87(1), 43–52.
https://journals.sagepub.com/doi/10.1606/1044-3894.3483
この記事を書いた人
- 公認心理師。2007年に心理カウンセラー・心理セラピストとして独立し、熊本市に「熊本カウンセリング」を開設しました。以来17年以上にわたり、心理カウンセリングの実践に携わり、これまでに7,000件を超える相談実績を積み重ねてきました。2019年には拠点を熊本県八代郡氷川町に移し、地域に根ざした活動を展開しています。
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