広場恐怖症で外出できなかったけれど

広場恐怖症で全く外出できない状態のクライアント様に、約3カ月間の行動療法を中心にしたトレーニングに取り組みました。
そのときトレーニングに一緒に付き添われていたお母様から体験談を頂戴しましたので、ご紹介します。
掲載の許可をいただいています。


20代女性 N.I.さんのお母様

横断歩道を渡るのが怖くなった

娘は、中学校2年生から、学校の行き帰りに横断歩道を渡るのが怖くなったのです。
しかし、それは、今のようにはひどくはなかったようです。

それから、徐々にいろんな症状が起きてきて、病院を転々としました。
病院では、癲癇(てんかん)とか、いろいろな病名をつけられて、薬ばかりもらっていました。
もう、薬、薬、薬、薬・・・、薬漬けでした。

しかし、良い方向には進展しなくて、新しい症状が増える一方でした。

8年間、親子で苦しむことになった

そして結局、8年間、親子で苦しむことになったのです。

娘が学生の間は、まず、朝起こすのが大変でした。薬の影響で、体のだるさ、眠気、などが一日中続いていたからです。
何とか起こした後は、車で送迎。そして、授業中は近くの駐車場で待機。娘が倒れる可能性が常にあったからです。

その頃は、下の子の幼稚園の送迎もしていましたから、1時間ぐらいかかる娘の送迎の後に遅刻して幼稚園へ行くと、下の子は車酔いで嘔吐していました。嘔吐物を処理して待機する駐車場へ行っていたものです。
幼稚園の先生には、「遅刻しないように」といつも注意されていました。

娘は、この高校3年間については、ほとんど何も覚えていないようです。ただただ、眠気と闘っていたという気持ちしか残っていないようなのです。
あと、学校の階段が回って見えたり、動いて見えたりしていたそうです。
また、体調が悪くて、体育の授業を見学していたため、友達からは「都合がいいのね」とか言われて、傷ついていたようです。

当時、私はいろんな友人の話を聞いたり、本を読んだり、いろんな機関を回ったりしたのですが、なかなか助けにはなりませんでした。
娘は高校を卒業すると、家に篭るようになりました。それではいけないと考えて、就職に関しても市役所や障害者センター、心療内科、精神科、脳神経外科などあらゆるところへ行きました。

そのうち、娘は、胸が苦しい、胃が痛い、腹が痛いと内臓も痛みだしてきました。さらに、妙な咳、痰、黒い斑点、高熱等も出始めました。
親としては、癲癇ではないのではないか、薬の副作用ではないか、他の病気ではないかと、いろいろと考えて、さまざまな検査もさせました。

その頃、娘は自分の病気のことを友人には隠したがっていたため、友人との交流が減っていっていたようですね。
また、「怠けている」と思われることが多く、娘の理解者は少なく、苦しかったようです。 8年間、家族の中であっても、理解しているのは私だけで、夫や娘の兄弟たちですら理解してはいなかったようです。

結局、8年間、プラスになったことは何もなかったのです。

病院にかかる以外の対策を考え始めた

そして、去年の10月、ある病院の癲癇専門の医師から、
「癲癇ではない」
「これまで服用してきた薬はすべて飲まなくてよい」
「これ以上検査しても、お金の無駄。」
と言われたのです。これには、驚きました。
これまでの診断と治療は何だったのか、今でも分かりません。

その後、病院にかかる以外の対策を考え始めました。
そしてインターネットで見つけたのが、熊本カウンセリングだったのです。
娘が見つけて、「電話をかけてみて」と私に頼んだのです。

でも本当は、熊本カウンセリングに電話するのは、恐さもあったのです。
世間では、悪質な訪問販売とか、オレオレ詐欺とかあっていますから・・・。

また、娘が、「料金は高いし、保険はきかないよ」と言いました。
しかし、今は親として貯金とかを重視している場合ではない、この子の将来がかかっていると考えて、思い切って電話したのです。
やはり、親としてするべきことは生きているうちにしておかないとと思ったからです。

娘は家の中で毎日当たり散らしていた

田中先生に電話した当時は、娘は家の玄関から一歩も出れない状態でした。玄関を開けて、入ってくる風に当たるだけで恐さを感じるぐらいでした。
癲癇の薬を止めてから、急に広い空間に対する恐怖症が強まっていたのです。車に乗せて、毎日1回は外に出していましたが、車から降りることはできませんでした。

当時、娘は私に対して、「何もしてくれない」と怒りをぶつけていました。私としては、8年間一生懸命に尽くしたつもりだったのですけれど・・・。
娘は8年間、薬の副作用などによる体の不調とひたすら闘っていたので、周囲のことは見えていなかったのですね。記憶にも残っていないのです。
しかし、そう言われると、親としては悲しいものがありましたね。

娘は家の中で毎日当り散らしていました。
「私を誰も見てくれない」
「私はいつ死んでもいい人間だ」
「私は孤独だ」
「私は用無しだ」
「私は必要とされてない」
「自殺する」
「私がこんなに苦しんでいるのに誰も理解してくれない」
「なぜ私を産んだの」
等など叫んでいました。

ご近所でも有名だったと思います。
毎日ドッタンバッタン、すごい声でした。言い出したら止まらないのです。本人もイライライライラして抑えられないのですね。顔の表情も暴言の内容も別人格のようでしたね。

家族みんなが娘と対面することを嫌がる感じでした。
そして、それだけでなく、夫婦関係、親子関係、全てがギクシャク、イライラしていました。家族みんなが不平不満だらけでした。
話を1つするのにも、穏やかさがないのです。話し方がくってかかっている感じです。顔にもにこやかさが無く、表情が無い感じです。返事も怒っている感じ。みんなバラバラでかみ合っていませんでした。

私は私で発散するところがありませんので夫に発散していました。夫は一応受け止めてくれていましたけれど、やはり聞きたくない状態でした。
人にも会いたくなくて、昼でも雨戸を閉めて寝ていることが多かったです。

子供の学校へ行っても、保護者同士の会話についていけないのです。いつの間にか別のことを考えていて、「何を突拍子のないことを言うの?話聞いてないね。」とよく言われていました。

また、買い物の後、家に帰るのが嫌でしたね。
私は、心ひそかに、もう実際にバラバラになって、それぞれが自分の道を歩いていったほうがいっそのこといいのかなと考えることもありました。

治ろうとする意志が大事

ただ、娘は薬を止めてから、朝早く起きるようになって、自分の体のことを知りたくなったらしく、本を読み始めました。
意欲がでてきたようで、牛乳と黒胡麻と黄粉を毎食後に摂ったりして、自分なりに食事療法に取り組んでみたりしていました。すると、冷たかった手足が少しずつ暖かくなってきましたね。

今思うのですけれど、親も一生懸命ですけれど、子供も回復しようとする意欲に目覚めないと、なかなか良い方向にはいかないですね。2人が一致しないとですね。

以前は、本人が、「どうせ治らないじゃない」「何をしたって治らないじゃない」と否定ばかりしていたのです。
それが、自分から情報を探したり、食事を工夫してみたり、とするにつれて良い方向に向かってきたようです。治ろうとする意志が大事ですね。

田中先生に初めて会ったときの印象は、話しやすくて温和な感じを受けました。これまでたくさん病院を回りましたので、いろんなお医者さんを見てきました。お医者さんによっては、イライラしているのがはっきりと分かる人がいて、患者の側がこんなこと言ったらいけないかなと逆に気を使う場合もあります。

また、病院は2時間ぐらい待たされても、診察は10分ぐらい、ひどいときは5分ぐらいで済まされます。
しかし、田中先生とはゆっくりと話せるし、話しやすいし聞き上手だし、よかったです。 心を扱う人は、おっとりゆっくりのんびりがいいですね。

しかし、正直いって、最初の2回目ぐらいまでのイメージトレーニングのときには、「何をしているのかな?」と不安がありました。
先生が帰られた後に、娘にイメージトレーニングの感想を聞いても、「よく分からない」と言っていたのです。
しかし、玄関から出れなかったのが、実際に玄関から一歩を踏み出したときから、やっぱり田中先生に今後も出張してもらおうという気持ちが強まりました。

娘の進歩が目に見えてありました

その後、田中先生が来られるたびに、娘の進歩が目に見えてありました。
ただ、トレーニング開始二か月目までは山あり谷ありでした。
娘は、先生が帰られた後はルンルン気分なのです。
次の日も、できなかったことができるようになったということで嬉しくて仕方がないようでした。

そして3日後ぐらいからいつも谷がくるんですね。できていたことができなくなってくるのです。そして、そのときの焦りや不満を私にぶつけてくるのです。ですからその時期は、朝から晩まで、1日中親子喧嘩をするのです。
先生がおっしゃったように、山あり谷ありだからと言い聞かせるのですけれど、この子は「早く治りたい」「もっと歩けるようになりたい」という一心なのです。

それが3ヶ月目に入って、歩ける距離が伸びたり、恐がっていた横断歩道が渡れたりしてきたので、ますます嬉しさが強まって、自信もついてきたようです。
ただ、谷の時期になったときに、やはり本人は苦しんでいたようです。
目標を高く持つのはいいことですが、谷になったときの対処が難しかったようです。

しかし、山あり谷ありがあって良かったのですね。
「人生も山あり谷ありだから、これから1人で生きていくときになっても、田中先生としたトレーニングを思い出して頑張っていきなさい」と教えているのです。
本人もそれは分かってきているようです。

3カ月間のトレーニングの結果

田中先生に出張して来ていただいて、悪いことは無く、いいことばかりでした。
週に1回来ていただく日を娘も楽しみにしていますね。自分の進歩が見えますから。

8年間恐がってできなかったことが、3ヶ月間のトレーニングの結果、今では長い横断歩道も1人で渡ることができるし、親子でショッピングもできます。先日は、下通(注・田中:熊本県下で最大の繁華街のことです)まで行って2時間ぐらいウロウロしてきました。ダイエーにも入って、2人で別々に行動しました。
娘にとっては、日々が新しい所へ行けたという喜びがあるようです。

娘も達成感が気持ちいいとか、前は家の中にいるほうが外に出るよりもいいと思っていたけれど、今は外出したいという気持ちが強まっていると言っています。

ときどき、先生に出張で来てもらわなかったら、どうなっていただろうかと2人でよく話すのです。
おそらく、まだ引き篭もっていただろうねと言っています。こういう景色を見たり、ショッピングもできなかったよね、と話しています。

昔はあんなに親子仲が悪かったのに、今ではどこに行くのも一緒で、誰からも仲のいい親子ね、と言われます。
この子が良くなるにつれて、私も明るくなったし、元気も出てきました。

娘は、田中先生の言葉にとても勇気づけられていたようです。
「できなかったけれど、お母さんと手をつないでならできた。」
「昨日は渡れなかったところが、今日は渡れた」
「今日は○○○が進歩した」
というようなトレーニングの最中の言葉です。

私は、「渡れなかったら、もういいよ。」という感じだったのです。
言葉に違いがあるようなのです。私の言葉は、どうやら、自信を無くすような気がしたり、落ち込むような気がするそうなのです。私自身は気がついてないのですけれど・・・。

でも、先生が発する言葉はすべてがプラスに聞こえて、先に希望が持てるようなのです。
娘は、1人でトレーニングするときも、先生が自分の先を歩いていて、「いいですよ!」とか「その調子!」と言葉をかけてくれているようにイメージしているそうです。

また、娘も私も話し下手なのですが、意味不明な話でもゆっくり聞いて下さって、応えてくださるのでホッとしているところがあります。

自分が変われば周りも変わる

それと実は、娘のトレーニングが始まったぐらいから、家庭内も和んでいます。家族みんながまとまって和やかになって、娘と積極的に関わるようになったのです。娘の長所をみんなが認めるようになりました。

今は、家族みんなが、振り返るときにニコッとして、「なあに」という感じです。
とくに夫が娘を理解するようになって、今では、仲がすごく良くなって、出かけるときにも娘と一緒、帰ってきたらすぐに娘を呼んで、「今日は何をしていた?」と聞いているのです。昔は考えられない状況です。落ち着いて面と向かって話をするなんて昔は無かったからです。
食事をするときもくっついて食べていますね。昔は、娘のことに触れたくない、避けていたいという感じでしたのに。

家庭内にこのような大変化が起きたのは、娘がにこやかになったからだと思います。今では、本人も自分が変われば周りも変わるということが分かってきたみたいですね。

昔に比べたら今は幸せ

娘は、もうしばらくしたら、何か仕事をしたいと言っています。
昔は仕事に就いても、すぐ辞めて平気だったようです。しかし、今はどんな仕事に就いても長く続けたいと言っています。
恐怖症になってずっと家に篭っているよりもいいようです。

また、これまでは、継続して取り組んで何かを達成するという体験は無かったようなのですが、今回のトレーニングを通して、継続して努力すると何かができるんだということが分かったことも自信につながったようです。

また、娘は朝食も作ってくれるようになっています。
今回のトレーニングに並行して、茶碗洗いや風呂掃除もさせていたら、ずいぶんできるようになりました。
昔だっら、朝用事を頼んでも2日経っても何もしていない状況だったのですが、今はすぐにやってくれるようになりました。体が軽いみたいです。
今後は料理を10種類ぐらいはマスターさせようかなと計画しているところです。

さらに今後、私のお友達とか大人の集まりにこの子を連れて行こうと考えています。
これまで、娘の症状が重いときは、私の関係、夫の関係、兄弟が連れてきた子たち等の輪の中には入れようとはしていなかったのです。そういうときは、2階へ上がって会わないようにしていたのです。
しかしこれからは、少しずつ大人と会う場に連れて行って、人と交流することに慣らしていこうと思っています。

昔に比べたら、今は幸せですね。もう、投げ出そうかというときもあったけれど、本当に山あり谷ありですね。悪いときばかりは続かないということが身に沁みて分かりました。 もう何があっても負けないような力がついたような気がします。

(20代女性 N.I.さん のお母様より)

心理カウンセラーからコメント

広い空間に対して強い恐怖感を感じてしまって、外出が困難だったN.I.さん。熊本カウンセリングまでお越しになることも不可能でしたので、特別に週1回の出張カウンセリングをいたしました。

トレーニングの内容は、行動療法が中心でした。真夏の日差しが降り注ぐ路上で、3人で汗を流しながらトレーニングを繰り返したことを昨日のことのように覚えております。恐怖症がほぼ解消されて自由な外出が可能になったのは、私が差し上げた毎日の課題トレーニングをやり抜いたN.I.さんご本人、そしてそのトレーニングに付き添われて支え続けたお母様(本当に頭が下がります)のお2人の努力の賜物です。

N.I.さんには、今後あちらこちらへ外出されて(お母様と一緒に!)、人生の喜びを味わっていただきたいと思います。
私も、お会いするたびにN.I.さんの喜びが感じられて、この仕事を始めて良かったとつくづく思うことが多かったです。ありがとうございました

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